大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2983号 判決

控訴人 全東栄信用組合

右代表者代表理事 本多一雄

右訴訟代理人弁護士 松田孝

被控訴人 東京信用保証協会

右代表者理事 磯村光男

右訴訟代理人弁護士 成富安信

成富信方

青木俊文

星運吉

田中等

高橋英一

中山慈夫

中町誠

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  原判決主文四行目に「計算交付書」とあるのを「交付計算書」と改める。

三  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。ただし、原判決七枚目裏二行目中「一九六万三〇四一円」とあるのを「一九七万三〇四一円」と訂正する。

理由

一  請求原因1の事実、同2の(一)のうち各抵当権設定登記がなされていること、同2の(三)のうち訴外会社が手形交換所の取引停止処分を受けたこと及び各抵当権移転の附記登記がなされていること、同2の(四)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

請求原因2のその余の事実は、《証拠省略》を総合して、これを認める。

二  前示の事実からすると、連帯保証人である被控訴人は訴外銀行及び公庫に対する訴外会社の本件各債務をすべて弁済することにより、主債務者である訴外会社に対し求償権を取得するとともに、その求償権の確保のため、訴外銀行及び公庫の訴外会社に対する本件各債権並びにこれを担保する本件根抵当権及び抵当権を代位取得した―後に検討するその範囲の点は別として―というべきである(なお、根抵当権につき代位が認められるためには被担保債権の元本確定後に弁済がなされたことを要するが、本件の場合訴外会社に対する取引停止処分により同会社と訴外銀行との取引が終了したことは弁論の全趣旨によって認められるところであるから、被控訴人の弁済が被担保債権の元本確定後のものであることは明らかである)。

三  まず、主債務者たる訴外会社所有の第(一)号物件に設定された本件根抵当権及び抵当権に対する代位の範囲について検討する。

民法四五九条二項、四四二条二項は保証人(委託を受けた保証人)の主債務者に対する求償権の範囲について規定するが、この求償権の範囲の問題自体は両者間の関係に止まるから、右規定は任意規定であり特約を許すものであることは、異論のないところであろう。従って、本件の場合被控訴人は訴外会社に対し前認定の特約イにより、自己が代位弁済した金額とこれに対する弁済の翌日以降年一八・二五パーセントの損害金を求償しうるものというべきである。

ところで、民法五〇一条本文によると、代位弁済者は自己の求償権の範囲内で、債権者の有した権利を代位所得するものとされているが、右の「求償権の範囲」が前掲の同法四五九条二項、四四二条二項等による法定の範囲に限定されるものと解すべき法文上の根拠はなく、求償権の範囲につき特約があるときはその特約による求償権の範囲内で代位する(ただし、債権者の有した権利の範囲を限度とすることは代位の性質上当然である)ことを認めたものと解するのが、求償権の確保のために認められた代位の制度の趣旨にも適合する。右のように解するときは、代位の対象たる権利が担保物権である場合に後順位担保権者等の第三者が右の特約の有無やその内容によって影響を受けることとなるが、それらの第三者はもともと右代位の対象たる公示された権利の対抗を受けるべき地位にあったのであり、代位は債権者の有した権利以上のものを代位者に取得させるものではないから、それらの第三者に不測の損害を及ぼすわけではないのである。従って、本件の場合被控訴人は前示の特約イによる求償権の範囲において(ただし訴外銀行及び公庫の有した権利の範囲を限度として)本件根抵当権及び抵当権を代位取得したものであり、これによる優先弁済権を後順位抵当権者たる控訴人に対し主張しうるものというべきである。

四  次に、物上保証人たる訴外草桶廣二所有の第(二)物件に設定された本件根抵当権及び抵当権に対する代位の範囲について検討する。

民法五〇一条但書五号は保証人と物上保証人との間においてはその頭数に応じて代位すべきものとしているが、これは保証人と物上保証人との間で出捐を分担する割合(負担部分)を平等とするとともに、代位が負担部分に基づいてなされるべきことを定めたものと解することができる。前者、すなわち負担部分を平等とする点については、負担部分自体は保証人と物上保証人との間の関係に止まるから、両者間で別段の約定(特約)をすることを妨げるものでないことは、異論のないところであろう。後者、すなわち代位が負担部分に基づいてなされるべしとの点は、連帯債務者相互間や共同保証人相互間において負担部分に基づいて求償、代位の範囲が画されるのと同様であって、代位の範囲についての通則ともいうべきものである。そして、右の通則の適用上その負担部分を常に平等のものに限定すべき理由はない(連帯債務者や共同保証人については負担部分を平等と定めた任意規定もない)。従って、保証人と物上保証人との間の代位についても、負担部分につき特約があるときは、その特約による負担部分に基づいて代位するものと解すべきである。右のように解しても、代位した担保物権の後順位担保権者等の第三者に不測の損害を及ぼすわけではないことは、前記三において述べたところと同様である。

また、保証人と物上保証人との間の代位の範囲については、共同保証人間の求償権の範囲に関する民法四六五条一項、四四二条二項を類推適用するのが相当であるが、この点も前記三で述べたと同様の理由により特約があればそれに従うべきものと解する。

してみると、本件の場合被控訴人は第(二)物件についても、前認定の特約ロ、ハ(訴外草桶廣二の負担部分を全部とし被控訴人のそれを零とする)に従い、前認定の特約イに定める求償権全額の範囲において(ただし訴外銀行及び公庫の有した権利の範囲を限度として)本件根抵当権及び抵当権を代位取得したものであり、これによる優先弁済権を後順位抵当権者たる控訴人に対し主張しうるものというべきである。

五  そこで、本件各配当交付額について検討する。

被控訴人の本件配当要求額は次のとおりである(損害金の計算関係については《証拠省略》によって認める)。

(一)  訴外銀行関係分

(1)  代位弁済金二八万八九二七円とそのうち元本相当分二八万六四九四円に対する代位弁済の翌日の昭和五〇年一二月一七日から配当期日の昭和五二年九月二〇日までの損害金として特約イの年一八・二五%を下廻る年一四%(訴外銀行と訴外会社との間の約定損害金率)の割合による損害金七万〇六五八円

(2)  代位弁済金八一四万三九一一円とそのうち元本相当分八〇〇万円に対する右と同じ期間、同じ割合による損害金一九七万三〇四一円

(二)  訴外公庫関係分

代位弁済金三一八万八一〇六円とそのうち元本相当分三一〇万円に対する代位弁済の翌日の昭和五〇年一一月一四日から配当期日の昭和五二年九月二〇日までの損害金として特約イの年一八・二五%を下廻る年一四・五%(訴外公庫と訴外会社との間の約定損害金率)の割合による損害金八四万〇五五五円

右の配当要求額はいずれも訴外銀行及び公庫が有した本件根抵当権及び抵当権による優先弁済権の範囲内にあることは明らかであるので、その全額について控訴人に優先して配当がなされるべきである。

六  よって、原判決添付第一売却代金交付計算書のうち第(二)号物件順位3ないし5の部分を同第二売却代金交付計算書の該当部分のとおり変更することを求める被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却し(ただし原判決主文四行目に「計算交付書」とあるのは「交付計算書」の明白な誤記と認められるのでそのように更正することとし)、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 外山四郎 裁判官 村岡二郎 清水次郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例